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名古屋高等裁判所 昭和50年(ネ)20号 判決 1976年11月29日

控訴人

篠田捨三

右訴訟代理人

東浦菊夫

外一名

被控訴人

奥村勝彦

右訴訟代理人

広瀬英雄

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

(一)  被控訴人は、控訴人に対し金三五万円及びこれに対する昭和四三年一月一日からその支払のすむまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人のその余の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、第一、二審を通じ控訴人の負担とする。

三、この判決は、主文第一項(一)に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一当裁判所は、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し三五万円及びこれに対する昭和四三年一月一日からその支払のすむまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲において理由があるが、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(一)〜(五)<省略>

(六) 原判決一〇枚目裏一行目から末行にかけて、及び同一一枚目表一行目から二行目にかけて全部削除し、次のとおり改める。

「昭和四二年一一月初旬ごろ、債権者委員会は、最終的に控訴人の債権額を三五〇万円と確定し、一割の三五万円を配当し、残債権は放棄させることに決定し、控訴人に対する交渉を債権者委員会委員訴外山脇に一任した。そこで、訴外山脇は、控訴人及びその代理人訴外佐藤と折衝した結果、同月中旬ごろに至り、訴外山脇及び右訴外佐藤との間に、右決定案どおりの合意が成立し、そのころ訴外佐藤は、訴外山脇に対し配当金三五万円を差し引いたその余の残債権三一五万円を放棄する旨意思表示をなし、その旨の正式文書は後日作成することとし、とりあえず訴外佐藤は、その旨の仮文書を訴外山脇に提出した。その後昭和四三年秋ごろ、訴外佐藤は訴外由脇に対し正式文書(乙第五号証の二)を提出した。

控訴人は、前記のとおり昭和四二年八月末日を以つて債権者委員会委員長の職を辞したが、これに伴い、訴外佐藤も委員長代理の職を辞した。しかし、右日時以後昭和四三年秋に至るまで債権者委員会に対し、控訴人から代理人訴外佐藤を解任した旨の通知は一切なされなかつたし、控訴人及び訴外佐藤の間においても委任契約解除等の話は一切持出されたことはなかつた。

以上の事実が認められ、<る。>

以上に認定した事実によれば、昭和四二年一一月中旬ごろ控訴人代理人訴外佐藤と、債権者委員訴外山脇との間に被控訴人主張のとおりの本件和解契約が成立したことは明らかである。

ところで、<証拠>によれば、訴外佐藤は委員長代理在任中債権者の一人である訴外児玉化学から約二〇ないし三〇万円余を私的に借用していたこと、そのほかにも、委員会の公金を一時流用したりし、その未清算金が若干あつたこと、これらの事情から、訴外山脇と訴外佐藤との間に、控訴人に対する配当金三五万円は、右児玉化学に対する返済金等に流用する旨の合意が成立し、右合意に基づき、昭和四二年一一月一八日ごろ配当金三五万円は、訴外佐藤が控訴人の代理人として債権者委員会から一旦受領しその領収書を差入れた後、(正式な領収書は前記債権放棄の正式文書と共に昭和四三年秋ごろ提出された)直ちに訴外佐藤の名において、これらの返済金に使用されたこと、以上の事実が認められ、<る。>

なお、右配当金流用の件につき、控訴人が当時これを承諾していたとの趣旨の<証拠>は、<証拠>と対比したやすく信用し難く、他に右承諾の事実を認めるに足りる的確な証拠は存しない。

以上に認定した事実によれば、配当金三五万円が控訴本人の手に渡らず、訴外佐藤の個人的債務に流用されることは、債権者委員訴外山脇の熟知するところであつたことは明らかであり、このように、代理人が自己の利をはかるため、本人を代理して弁済金を受領することは、代理人の権限濫用行為というべきであり、このことを熟知しながら、あえてその代理人に弁済金を交付したものは、信義則上本人に対し弁済行為の有効なることを主張し得ないものと解するのが相当である。

従つて、弁済金受領についての被控訴人の表見代理の主張は、もとより採用できない。

これを要するに、本件和解契約は、有効に成立したが、配当金は未だ弁済されていないから、控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく配当金三五万円及びこれに対する弁済期の後である昭和四三年一月一日からその支払のすむまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲において正当として認容すべきであり、その余は失当として棄却さるべきである。」

二<省略>

(柏木賢吉 松本武 菅本宣太郎)

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